アメリカは個人主義だから、なんでも自分で調べ、自分で学ばなければならない、と思っていた。実は微妙に違う。私がアメリカに来て良かったな、と思えることの一つ、それは「教育」である。
こっちに来てから、ボス、あるいは共同研究者から、多くのことを学んだ。
・・・別に、日本にいたとき何も学ばなかったと言っている訳ではない。やり方が違うだけなのだが、一番大きな違いは、こちらでは「直接」教えてくれる、ということ。「当たる」グラント申請や「通る」論文の書き方、「面白い」プレゼンテーションの仕方、「正しい」推薦状の書き方等々、ファカルティの人は、持てる技術を惜しみなく教えてくれる。
個人的に教えてくれるだけではなく、授業もある。もちろん学生だけでなく、ポスドクもその対象であり、そういった授業を受けることを、ボスに強く勧められる。ボスにとっては、自分が育てた学生やポスドクがどれだけ一人前の優秀な研究者になるのか、もボス自身の評価になるのだと思う。
一方日本では、古来からある「背中を見て学べ」的な風潮が、研究の世界にもあるような気がする。いわゆる匠の世界である。師匠は決して弟子に直接物を教えず、弟子は師匠の技を盗まなくてはならない。
・・・中には「匠」でもないのに出し惜しみする人もいるけど(-_-) ある意味、日本の方が成熟しているとも言える。アメリカは過保護なお子ちゃま社会なのかもしれない。
うちのボスは書き物が本当に上手。彼女から学ぶべきことは多い。ボスが書くと、
なんか素晴らしいプロジェクトに取り組んでいる気がしてくる < 気だけでいいのか?
例えば論文。日本にいたときはどんなに面白いデータを論文にしても、Reviewer からのコメントには必ず一言、「英語がダメ」とか「ネイティブに読んでもらえ」とか書き添えてあった。有名英文ジャーナルでは、「日本人投稿者への注意事項」という情けないものまである。世界中で日本だけ特別扱い、というのもある意味すごい。
だから、今年受理された論文の査読で、
"This paper is very well written"
というコメントをもらったときには、私の手柄ではないとはいえ、非常に嬉しかった。同じ役者(データ)でも、良い監督の下では輝いて見えるのである。
あ、いや、日本にいたときは、監督が悪かったのではなく、メーキャップ係が悪かったんですけど。 そんなボスだが、意外と縁起を担ぐタイプである。私がこっちに来るとき応募したいくつかのフェローシップのアプリケーションに、
ボス:I have a lucky pen.
と言って、いつも同じペンでサインしていた。で、実際立て続けに当たったりしていたので、私も調子に乗って、その後もグラントの応募や論文の投稿の度に、
私:We should use your lucky pen. Thanks to it, we've been successful.
を
連発していたら、最近反応してくれなくなった。いえ、ペンのおかげじゃなく、ボスの才能のおかげですってば。
- 2006/12/06(水) 16:02:11|
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御存知の通り、アメリカでは皆、家族・友人をとても大事にする。ラボのスキー旅行なんか、家族、友人、果てはそのまた友人まで連れて来たりするので、ラボメンバーは6人しかいないのに、参加者が15人を超えたりする :-)
うちのラボは配偶者持ちが多いせいか、朝から晩まで、話題は家族に関することが結構多い。ボスとポスドクG(共に女性)は、娘さんの誕生日がたった2週違い。なにかというと子供自慢対決が始まる。一見たわいない2歳の子供の話に聞こえるが、周りは結構ヒヤヒヤ。だって、お互い、相手の話を全然聞いてないんだもん (-_-)
今日は Flu shot(インフルエンザの予防接種)の話。まずはポスドクGが、無敵の娘自慢。
G:My daughter did not cry on the flu shot!
I was proud of her!!
ほぉー、すごいねぇ。
G:I thought every kid would cry, but she never ever cried.
I was so proud of her! わかった、わかった(-o-)
それに比べて、さすが大人、ボスの話はちょっと微笑ましい♪ 娘さん、お医者さんに行くまでは必死で泣かずに頑張っていたのだが、注射された途端に、痛くて泣き出してしまったらしい。
ボス:She cried and said,
"I wanna go to a doctor…" わっはっは(^o^) それは可愛い(^o^)
雑談も終わり、さあ、仕事に戻ろうか。
G:(自分の席に戻りながら)I couldn't believe that.
I was really proud of my daughter! あー、もうええっちゅうねん(-_-##
- 2006/11/08(水) 12:32:51|
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学会発表には、スライドによる口演とポスター発表の2つがある。今回、私はポスター発表。自分の最新の研究内容を縦 1 m 横 1.5 m 程度のポスターにまとめ、各自に与えられたスペースに展示し、そこを訪れる人に説明する。
今回参加したのは、参加者3万人を超える巨大学会。発表演題数も軽く2万を超えるため、与えられる発表時間は限られており、ポスターは午前・午後で張り替えられる。半日のセッション中、各自1時間のコアタイムがあり、その時間は基本的に自分のポスターの前に立っていなければならない。
昔は英語で質問されるのが嫌で、人が集まってきたら、
「
私は発表者ではなく、ただの通りすがりに過ぎませんよ」
というふりをして、いつでも逃げられる準備をしていたのだが、初めてこの学会に参加した8年前は、さすがにちょっと悲しかった。まだこの分野で無名だったこともあってか、コアタイム中に来てくれた人はたった一人。
"Excuse me"
と言われて、お、質問か?と身構えると、どうやら隣のポスターを見に来たらしく、邪魔だからどいて、と言わんばかり。
絶対どかない(-_-# 最近は慣れてきて、ポスターを眺めている人に
「質問があったらなんでも聞いてね」
くらいは言える余裕も出てきた。今回は、来てくれた1人に説明し始めた途端、わらわらと大勢人が集まってきたりして、結構快感 :-)
とあるポスターを見に行ったとき、発表者に説明を頼んだら、
"Which would you like, a short tour or a long tour?"
かっこいい。こんなことを言ってみたいものだ。
ポスターを展示している時間のうち、コアタイム以外は必ずしもその場にいなくても良いのだが、うちのボスは、
「学会発表ではフィードバックが重要なので、ポスターセッション中はずっとその場にいること」
というポリシーを持っている。もし同時間帯に発表される興味深いポスターがあったら、ラボの誰かに行かせれば良いという。一理あるので、私はその方針に従っているが、隣で発表していた同僚のポスドク A は、興味のあるポスターは自分で見に行きたいからと言って、ちょくちょく持ち場を離れている。
実際、同時間帯には似たような研究内容の発表が多いので、時々、
「あっちで今発表しているポスター見た?面白いぞ」
と言われることも多い。その都度、半分冗談で、
私:
別に悪いことした訳じゃないんだけど、うちのボス、ここにずっと立ってろ、って言うんです。
と答えておくのだが、今回おせっかいな誰かがそれをボスに言ったらしい。発表の後、
ボス:なんで他のポスターを見に行かせてやらないんだ、って言われちゃったわよ。
・・・もう、余計なこと告げ口しないで欲しい(-_-#
で、なんと言い返したんですか?
ボス:I said
you are a good boy and A is a bad boy.
うーむ。やっぱり小学生みたいでヤダ。次回は言いつけに背いてやる。
- 2006/10/21(土) 04:59:54|
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